人間ドックについて

検査について(その5)

人間ドックについての質問集

はじめに

このコーナーは、読者、勤務先の受診者などからの人間ドックについてのQ&Aのうち、人間ドックで行っている検査についての5番目のものです。

質問リスト

  1. ヘリコバクターは、バリウム検査では発見できないのでしょうか? (2003/3/30) →問1の答え
  2. 採血の時刻、順番は検査結果に影響しないのでしょうか? 今回、初めてバリウムを飲んだ後の採血になったので心配です。(2003/3/30) →問2の答え
  3. 胃部X線写真による放射線の照射は、半年分の寿命を縮めることと同じと本で読みました。普通に生活している人が浴びる放射線の照射量とは雲泥の差であるはずです。胃の検査は、胃カメラに切り替えるべきではないでしょうか? (2003/9/15) →問3の答え
  4. 検査項目ごとに何年に一回、というような「検査周期」の基準はあるのでしょうか。(2004/4/4) →問4の答え
  5. 内視鏡検査で絶飲食にする理由として誤嚥、嘔吐、腹部膨満以外に、必要とする具体的な理由として患者に説明する場合、どういった説明が考えられますか? (2004/4/4) →問5の答え
  6. 体調不良のため、血液検査をしたところ総ビリルビンが基準値よりも低い数値(0.1mg/dl)でした。低い数値でも問題があるのでしょうか。(2004/5/6) →問6の答え
  7. コロナウィルスが無くなるまでは感染の危険があるまで内視鏡検査を受けたくありません。人間ドックを受けないで通院先で血液検査と胸部エックス線撮影だけ受けることにしますが、構わないでしょうか?(2020/7/2) →問7の答え

Q&A

1番目の質問

問い

ヘリコバクターは、バリウム検査では発見できないのでしょうか?

答え

残念ながら不可能です。ヘリコバクターの検査としては、

  1. 内視鏡検査で組織片を採取>顕微鏡で菌体を証明する
  2. 内視鏡検査で組織片を採取>菌を培養する
  3. 内視鏡検査で組織片を採取>尿素をアンモニアに分解するかどうか検査する
  4. 血液を採取>抗体を証明する
  5. 尿を採取>抗体を証明する
  6. 便を採取>抗原を証明する
  7. 炭素13で標識した尿素を飲む>呼気から二酸化炭素中の炭素13の増加を証明する

大きく分けてこの5種類があります。

間違いが少なく感度も良い方法としては、治療前の診断には上記のうち3番目(迅速ウロアーゼ)または4番目、治療後の効果判定には7番目(尿素呼気試験)が良いと思います。

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2番目の質問

問い

採血の時刻、順番は検査結果に影響しないのでしょうか? 今回、初めてバリウムを飲んだ後の採血になったので心配です。

答え

白血球数の場合、朝8時ごろが最低で、夕方4時ごろが最高になる方が多いです。したがって、当然影響はあるでしょう。血球計算だけを考えると、午前7時30分までに朝食を摂って、午前11時から12時に採血するのがベストでしょう。

しかし、短期人間ドックでは、他の検査との兼ね合いでそうも言っていられません。中性脂肪、血糖などを優先し、12時間以上の絶食の元に朝早く採血する場合が多いです。

バリウム服用のあとに採血ですと、施設によってはバリウムの味付けに入っている乳糖の影響を受けますので、むしろ血糖の測定値に疑問が出ます。余り好ましくはありません。糖負荷試験であれば、胃腸の壁に張り付いたバリウムの影響でブドウ糖の吸収速度が変わるので、なおさらです。

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3番目の質問

問い

胃部X線写真による放射線の照射は、半年分の寿命を縮めることと同じと本で読みました。普通に生活している人が浴びる放射線の照射量とは雲泥の差であるはずです。胃の検査は、胃カメラに切り替えるべきではないでしょうか?

答え

かつては、放射線はどんなに少ない量でもそれなりの害があり、それなりに寿命も短縮すると信じられていたのですが、最近は自然放射線レベルをわずかに上回る線量では寿命に影響しない、あるいはかえって寿命が延びるかも、というような報告も出ております。実際、長寿村で意外と自然放射線の線量が多かったりする例があるそうです。

自然放射線のレベルと言うと、1~2mSv(ミリシーベルト)/年くらいですが、上部消化管(食道・胃・十二指腸)のX線撮影の場合、0.6~2.0mSvなのだそうです。人によっては15mSvなどといっている人も居て、「1.5年の寿命短縮をもたらす」と主張する向きもありますが、余りにも突飛な数値なので、蛍光板で透視していた時代の話ではないでしょうか。

つまり、この検査は1年に1回やってようやく自然放射線による暴露を追い越す程度です。一般に放射線で白血病になる危険性を考慮するのは200mSv以上の場合です。70mSvの被爆で乳癌の発生が増えたとの報告がありますので少し余裕をみることとしましても、一生の間に胃のX線造影を何回受けたからまずい、とはいえません。

むしろ、X線写真に頼ることの問題は、早期胃癌を見逃す数の多さと、実は何でもないのに二次検査にしてしまう数の多さで、放射線による二次発癌以前に、精度の低さによる不利益の方が問題です。

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4番目の質問

問い

検査項目ごとに何年に一回、というような「検査周期」の基準はあるのでしょうか。

答え

特に定められたものはないと思います。結果によっても変わってきますので、固定的に考えると不味い場合もあります。

これは私見に過ぎませんが、確かに毎年繰り返さなくとも良い検査は存在します。異常が無かった場合の骨密度測定、肝炎ウイルスマーカー、血液型測定などは毎年やる必要は無さそうです。全結腸内視鏡検査も3年に一度で良い、という意見もあるくらいです。

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5番目の質問

問い

内視鏡検査で絶飲食にする理由として誤嚥、嘔吐、腹部膨満以外に、必要とする具体的な理由として患者に説明する場合、どういった説明が考えられますか?

答え

列挙されたものに付け加えるとすれば、食物が残っている場合には、病変が物理的に隠蔽されてしまうことによる誤診の可能性があることです。これで胃癌を見逃すこともありえます。

糖尿病により蠕動運動が悪かったり、通過障害があるような方では、普通の絶食時間では未消化の食べ物が残ってしまう場合があり、注意を要します。

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6番目の質問

問い

体調不良のため、血液検査をしたところ総ビリルビンが基準値よりも低い数値(0.1mg/dl)でした。低い数値でも問題があるのでしょうか。

答え

総ビリルビン値についてですが、低い場合には全く問題がありません。

追記

高い側についても、2.8mg/dl程度までの場合、抗酸化作用があるのでかえって良いという意見があり、人間ドック学会での最近の検討では判定基準の策定を行わなかったことを付記しておきます。

  

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7番目の質問

問い

コロナウィルスが無くなるまでは感染の危険があるまで内視鏡検査を受けたくありません。人間ドックを受けないで通院先で血液検査と胸部エックス線撮影だけ受けることにしますが、構わないでしょうか?

答え

人間ドック健診は任意型健診ですので、受けるか受けないかは受診者の自由意思によります。ですから、最終的にはどうするかは受診者が決めることになります。

ご指摘の通り、コロナウイルス流行期においては、人間ドックそのものがいわゆる「三密」を作る可能性があるため、不要不急の健診は延期することとされ、緊急事態宣言の期間中は各健保が人間ドック健診の取り扱いを中止いたしました。

流行が下火となって緊急事態宣言が解除されてからも、人間ドック健診のうち内視鏡検査、上部消化管エックス線造影検査、呼吸機能検査については感染リスクの点から慎重に取り扱う必要があります。この3つの検査はマスクを着けていては出来ない検査のため、感染防御の点からは慎重な取り扱いが要求されます。そのため、内視鏡検査を延期し、今シーズンは人間ドック健診を受けない、という選択は考慮に値すると考えます。

ここで考えなければいけないのは、内視鏡検査によるコロナウイルスの感染リスクと内視鏡検査を受けないことによる胃癌見逃しのリスクの兼ね合いです。毎年行っているヘリコバクターピロリ除菌後の経過観察のための内視鏡検査のような場合は、不要不急として内視鏡検査を来シーズンに延ばしても問題ないでしょう。しかし、胃癌のリスクが高い場合はそうも行きません。内視鏡による感染リスクを減らすため高度消毒、換気、個人防護具、手指衛生などに注意して検査を行うべきです。感染リスクを減らすための対策は健診機関や医療機関で行っております。

さらに、コロナウイルス感染が制御されて下火になることはあっても、終息することは想定できず、おそらくインフルエンザのように土着すると考えられています。コロナウイルスが無くなってから、というわけにはいかないでしょう。何れかの時点で内視鏡検査によるコロナウイルスの感染リスクと内視鏡検査を受けないことによる胃癌見逃しのリスクの兼ね合いを考えて人間ドック健診を受けていただくことになります。

私見を述べさせていただくと、すでに適切な感染予防策をとることで感染リスクは十分下げられる状況と考えており、現時点で内視鏡検査を過度に忌避する必要はないと考えております。ただし、流行再燃時には一時的に内視鏡検査を再び休止することも有り得ます。

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