人間ドックについて

診察を大事に

検査診断のみではちょっと……

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人間ドックというと、とかく検査診断の印象があります。しかし、検査だけが規定どおり行われれば良いのでしょうか。それでは十分とは言えません。内科医にとっては常識以前の話ですが、診察しなければ分からない異常、あるいは検査するとなると大袈裟でもきちんと診察すれば簡単に分かる異常が数多くあります。最近筆者が実際に経験したもので、診察所見が端緒となって発見され、その後手術となったものだけでも、次のようなものがありました。

  • 心音の異常:心房中隔欠損でした。
  • 眼振:小脳橋角部の髄膜腫でした。
  • 背部腫瘤:脂肪腫でした。

いずれも、診察所見がきっかけで診断されたものです。検査所見にも相応の異常が出ていたものもありますが、人間ドックでは通常まずやらない検査が必要となるものもありました。

一般に、人間ドックの検査では異常が出にくく、診察しなければ分からない異常の代表的なものには、次のようなものがあります。

  • 心臓の雑音、心音の異常
  • 呼吸音の異常
  • 神経系の異常:感覚、運動、反射の異常
  • 皮下腫瘤、発疹
  • 関節、筋肉の炎症
  • 甲状腺の異常
  • リンパ腺の異常
  • 口腔内の異常

もちろん、これだけではありません。これらがきっかけで発見される病気には、心臓弁膜症、甲状腺腫瘍、甲状腺機能亢進(低下)症、各種神経疾患、各種の関節炎、その他重要なものも多く、健康上決して無視できないものも多くあります。

これらの病気を見つけるのは人間ドックの目的からは外れる、人間ドックは成人病や癌を見つけるものであって、リウマチ性や先天性の心疾患、内分泌内科、神経内科、整形外科、皮膚科などの疾患は対象外だ、との異議がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、受診者のQOL(生活の質)を損ねる疾患であれば、どんなものでも、受診者には重要な問題だと思います。

また、数少ない疾患まで相手にするのは人間ドックの目的からは外れる、との異議がある方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、高脂血症や糖尿病などに比べれば、一つ一つの疾患の頻度はわずかです。しかし、受診者の生活の質を損ねており、治療が必要なものを全部集めれば、結構な数になります。特に整形外科疾患はQOLに直結するものが多く、馬鹿になりません。

ここでこのような話をあえて持ち出したのは、施設によっては、人間ドックは検査診断だからと内科的診察を省略したりするケースがあり、それが非常に気になったからです。内科的診察が含まれない胃集検(他施設で行われた)でのことですが、卵巣腫瘍が容易に外から触れる状態であったにもかかわらず、本人が気付いていても申告しなかったために1年近く放置された例がありました。人間ドックでもし内科的診察を省略した場合、同じことが起こらないとは言えません。

検査機器や技術を整備するのも重要ですが、基本である診察をきちんと行うことが大切ではないでしょうか。ましてや、総合ドックを名乗る以上、内科的診察を省略するのは問題外と思います。(そのような施設もあるので注意しましょう。日本総合健診医学会に「まともに診察をしない施設がある」との苦情が来たとの話を聞いたことがあります。)