人間ドックについて

検査について(その4)

人間ドックについての質問集

はじめに

このコーナーは、読者、勤務先の受診者などからの人間ドックについてのQ&Aのうち、人間ドックで行っている検査についての4番目のものです。

質問リスト

  1. MRIとは何ですか? 危険はないのですか? 教えて下さい。(2001/3/20) →問1の答え
  2. 内視鏡写真に出ているこの白い斑点は何ですか? (2001/6/17) →問2の答え
  3. 血糖値(空腹時)が高いが、HbA1cは正常値であった場合、この二つの検査は少なからず関連があると思いますが、どう解釈すればいいのでしょう? (2001/12/2) →問3の答え
  4. 3年連続で白血球増多症と書かれていました。9,000位までが標準なのに、私は毎年10,000くらいあります。白血球が多いということは、何か細菌感染などの疑いがあると書かれていたのですが、他に恐い病気などあるんでしょうか?(2002/1/6) →問4の答え
  5. LDHについてですが、基準値より低いことは問題ないのでしょうか? また、問題ないとすれば基準値の最低値にはどのような意味があるのでしょうか? (2002/1/6) →問5の答え
  6. 人間ドックに行った所、「総ビリルビンが1.30あり高ビリルビン血症を認めます。」という所見がありました。このことについて知りたいのですが、ビリルビンとは一体何なのか教えてください。(2002/5/6) →問6の答え
  7. 心電図で「rsR'パターン」とはどういうことなのでしょうか? 不整脈の心配はないのですか?(2002/7/3) →問7の答え
  8. 前年のドックで胃にポリープが見つかりました。その時に内視鏡で生検しましたが良性ということで安心しました。が、今年のドックでまた内視鏡を使い生検するようなのですが、度々ポリープを傷つけて問題ないのでしょうか? またポリープがある場合、毎年の内視鏡検査は必要なのですか? (2002/8/18)→問8の答え
  9. 尿検査の結果は以下の通りでした。どんな病気が考えられるのでしょう? (2003/2/11)
    • 赤血球:0-1/視野
    • 白血球:15-20/視野
    • 扁平上皮:7-8/視野
    • 細菌:(+)
    問9の答え
  10. 心電図のところに低電位・要観察とありましたが、すぐに病院に行った方が良いのでしょうか。低電位とはどういう事なのか、教えていただけないでしょうか。(2003/2/11) →問10の答え

Q&A

1番目の質問

問い

MRIとは何ですか? 危険はないのですか? 教えて下さい。

答え

MRIですが、物理学的には核磁気共鳴現象を利用した画像診断です。当方の物理学的な理解が頼りないので間違った説明をするかもしれませんがご容赦ください。

原子は自転していて、スピンと言われる物理量を持っています。このために、小さな磁石のようになっており、これに強烈な磁場をかけるとこれを整頓することが出来ます。その後である周波数の電波を与えると、原子の自転の向きがふらついて乱れます。しかし、時間が経つと元の向きに戻りますが、このときに出る信号を画像にしたものがMRI画像です。

X線CTと違い、自由な断面で写真が撮れますので、椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍などの診断も容易です。

磁場は強烈でも短時間のため、身体への危険は普通はありません。しかし、身体に埋め込んだ金属製の医療機器や鉄板などがあると、故障したり、磁石に引き寄せられて機械に激突したりするため、骨の接合のために埋め込んだ金属やペースメーカーなどがある人には絶対に検査が出来ません検査できない場合が多いです。また、ヘアピン1本のせいで頭が機械に激突した人がいます。1から2テスラという猛烈な磁力ですので。(ちなみに、リニアモーターカーで使う超伝導磁石も同じくらいの磁力だそうです。)

追記

骨の接合のための埋め込み金属ですが、チタン製の場合は問題がないことが多いです。また、MRI対策済みのペースメーカーも発売されており、絶対に検査できないというわけではないので訂正します。

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2番目の質問

問い

内視鏡写真に出ているこの白い斑点は何ですか?

内視鏡写真の白い斑点
図1 内視鏡写真の白い斑点

答え

内視鏡の先端からは、観察用の光が出ています。これで胃の中を照らし、観察するわけです。胃の粘膜には微細な凹凸があり、どうしても斑点状のハレーションが出てしまいます。雨の日の路面によるハレーションと同じようなものです。

しかし、この質問が予想外に多いので驚きです。観察者にとっては単なるハレーションでも、写真を見せられた受診者には何か悪いものに見えるようです。こんなものでも意外とFAQになってしまいます。

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3番目の質問

問い

血糖値(空腹時)が高いが、HbA1cは正常値であった場合、この二つの検査は少なからず関連があると思いますが、どう解釈すればいいのでしょう?

答え

HbA1c は安定化するまで約1月かかる物質ですので、この検査は最近1から2ヶ月の平均的な血糖のレベルを表します。おそらく、この場合、普段の血糖はそう高くないか(たまたま何かの理由でいつもより高く出た)、あるいは血糖が高くても、上昇している時間が短いために、HbA1cに反映されていないものと思われます。

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4番目の質問

問い

3年連続で白血球増多症と書かれていました。9,000位までが標準なのに、私は毎年10,000くらいあります。白血球が多いということは、何か細菌感染などの疑いがあると書かれていたのですが、他に恐い病気などあるんでしょうか?

答え

白血球の数というのは、非常に個人差が大きく、何も異常が無くても12,000くらいの人も珍しくありません。あくまでも普段の状態が基準になります。いつも9,000ある人が次の年4,000だったら大事件ですし、いつも3,500の人が3,000になっても何ともいえません。

いつも10,000くらいとのことですから、余り心配するには及ばないようです。ただし、ストレスや喫煙が悪影響を及ぼしている場合があり、注意は必要でしょう。

細菌感染を疑うのは、いつも7,000以下の人が10,000を超えたとか、好中球が75%以上を占めるとかいった場合です。

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5番目の質問

問い

LDHについてですが、基準値より低いことは問題ないのでしょうか? また、問題ないとすれば基準値の最低値にはどのような意味があるのでしょうか?

答え

問題ありません。少なくとも、病気としての意味はありません。

基準範囲というのが正式の言い方ですが、これは単に医学的に正常の個体の95%が含まれる、という意味しかないのが本来の定義です。この値の範囲内にあるのが望ましいとか、外れるのは好ましくない、といった価値判断を含むものではありません。単に人並みの状態といえる範囲が示されているだけです。

基準範囲の中にあっても、病気という場合もありますし、低い分にはいくら外れてもOK、高い分にはいくら外れてもOKと言ったように片側への変化しか意味のない場合もあります。また、基準範囲をどのくらい外れたら問題なのか、という点でも検査により違いがあります。LDHの場合は高い場合にのみ病気としての意味があり、基準範囲を低い側に外れた場合は、単に普通ではない、ということしか示しておりません。

基準値、基準範囲、カットオフ値、などについての概念は突き詰めると案外難しく、分かりにくい点でもあります。以上のような説明でお役に立てましたでしょうか。

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6番目の質問

問い

人間ドックに行った所、「総ビリルビンが1.30あり高ビリルビン血症を認めます。」という所見がありました。このことについて知りたいのですが、ビリルビンとは一体何なのか教えてください。

答え

血液の赤い色素であるヘモグロビン(酸素を運ぶ役目をします)が用済みになって半分に壊れると黄色い色素になりますが、これをビリルビンと言います。極端に多いと、黄疸になりかねません。これは脂溶性の強い色素ですが、肝臓で抱合を受けると水溶性になります。これが胆汁の中に出てきて、さらに胆汁が腸に出てきて便に色をつけます。

血液にビリルビンが多い場合、病態生理学的には

  1. 脂溶性のものが多い場合:血液が大量に壊れた? 肝臓に運び込むのが追いつかない?
    • 溶血性貧血?
    • 体質性黄疸など?
  2. 両方とも多い場合:肝臓に故障が起きた?
    • 肝炎、肝不全など?
  3. 水溶性のものが多い場合:胆汁がうまく流れていない?
    • 胆石、腫瘍など>閉塞性黄疸?

と考えます。

しかし、人間ドックで見かけるものは、病気で高くなった場合よりも、体質性のものが多いです。また、空腹で測ると高めに出ます。

なお、医学書では直接型、間接型という表現になっていることが多いです。脂溶性のものを間接型ビリルビン、水溶性になったものを直接型ビリルビンと言います。

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7番目の質問

問い

心電図で「rsR’パターン」とはどういうことなのでしょうか?不整脈の心配はないのですか?

答え

心房から房室結節まで伝わってきた、心臓を収縮させるための信号は、心室に入ってすぐに3系統に分かれます。右心室に行く経路を右脚、左心室に行く経路を左脚といい、左脚はさらに前(左脚前枝)と後(左脚後枝)に分かれるため、結局3系統となります。この3系統のうち1つあるいは2つの経路が途絶し、電気信号の通過に時間がかかるようになった状態を脚ブロックと言います。このうち、rsR’パターンは右脚ブロックの時に出現するものです。

電気信号の伝わる3経路のうち1経路が断線したのでは大変だ、と思われるかもしれませんが、右脚は元々他の経路に比べ作りが華奢で、ちょっとしたことで断線してしまいますので、断線したからといって必ずしも重病とは限りません。また、右心室の仕事量が相対的に低いため、ほとんど心臓の機能に影響することもありません。

例えていえば、左側2系統の同時断線(これを完全左脚ブロックといいます)は、東海道新幹線、東名自動車道、東海道本線、国道1号線、第1京浜、第3京浜、首都高速、……が全部不通になって、東京から神奈川に行くのに、中原街道と東急東横線しか使えなくなったようなものです。これに対し、右側1系統の断線は、中原街道と東急東横線だけが使えなくなったようなもので、大勢に影響ないといえます。(神奈川ローカルな例で申し訳ありません。)

従って、rsR’パターンが現れても、大抵はそのまま経過を見ることが多いです。高血圧、喘息、その他の慢性呼吸器疾患などで時々見かけますが、この場合は元の病気の治療に専念すれば良いでしょう。また、原因が不明なこともあります。ただし、心筋梗塞に伴うものだけは要警戒です。なお、これ自体は不整脈でなく、伝導障害です。

文字だけで説明するのは難しいので、よく出来た図譜や模型で説明できればよいのですが…。ウェブではそれも難しいです。

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8番目の質問

問い

前年のドックで胃にポリープが見つかりました。その時に内視鏡で生検しましたが良性ということで安心しました。が、今年のドックでまた内視鏡を使い生検するようなのですが、度々ポリープを傷つけて問題ないのでしょうか? またポリープがある場合、毎年の内視鏡検査は必要なのですか?

答え

小さなポリープで胃底腺ポリープと思われるポリープでは生検せず、判定も問題無しとすることが多いです。生検されたということはそれなりの大きさがあるポリープだったと思いますが、生検の反復自体には問題はありません。また、生検の対象になったポリープに対する翌年の検査の必要性ですが、ポリープの場合、一部だけ腫瘍で残りは違う、というようなものも時にあります。その場合、サンプルエラーで間違った判断をすることがあります。また、病理学者でも間違いが無いとは限りません。しかも、毎年のように新しいポリープが出来る人もいます。その場合、次の年のポリープが腫瘍ではないという保証が出来ません。そのため、ポリープを取り去った場合でも、生検のみで済ませた場合も、翌年は内視鏡で検査するように勧奨しています。

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9番目の質問

問い

尿検査の結果は以下の通りでした。どんな病気が考えられるのでしょう?

  • 赤血球:0-1/視野
  • 白血球:15-20/視野
  • 扁平上皮:7-8/視野
  • 細菌:(+)

答え

これですと、尿路感染症を疑うデータと思います。腎盂~尿管~膀胱~尿道のいずれかに炎症がおきている可能性があり、通常水分を多くとって尿量を増やすように勧めます。軽度なら、それだけで治癒することも多いです。重い腎不全、重い心臓病、ADH不適合分泌症候群などの水分を取りすぎてはいけない病気がないのであれば、再検査までの間、お茶などを多めに取るようにしてください。

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10番目の質問

問い

心電図のところに低電位・要観察とありましたが、すぐに病院に行った方が良いのでしょうか。低電位とはどういう事なのか、教えていただけないでしょうか。

答え

心電図は心臓の発生する電気を四肢と胸に付けた電極で電磁誘導として捉えたものです。電気現象ですから、ベクトルとして考えることが出来ます。低電位とは、その誘導からみたベクトルの大きさが小さい=誘導される電圧が低い現象です。

四肢誘導(手足につけた電極)のみが電圧が低く、胸部誘導(胸に付けた電極)では普通以上の電圧の場合、四肢誘導のみ低電位、ということになり、この場合はこのベクトルの向きが前後方向に大きく、横方向には小さいというだけのことです。心臓そのものの起電力は正常なので、特別に何かするということにはなりません。

これに対し、全誘導が低電位の場合、心臓の起電力が低いことになりますので、心臓を包んでいる心嚢に液体がたまっているか、心臓そのものが衰弱している可能性が出てきます。

しかし、低電位といわれる場合で問題なしまたは経過観察とされるのは、四肢誘導または胸部誘導どちらか一方のみ低電位の場合ですから、特に心配は要らないと思います。

加筆)

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