HDLコレステロール
高ければ高いほど良いのか?
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HDL(高比重リポ蛋白)の機能として、末梢の組織からコレステロールを回収する働きがありますので、HDLが十分働いていれば動脈硬化を抑制することが期待できます。その意味で、HDLコレステロールは「善玉コレステロール」と呼び習わされてきました。従って、従来から HDLコレステロールが高ければ高いほど良いと考えられていて、そのような方に対して、長生きするという意味で「長寿症候群」と言うような呼び方をしたりしていました。
しかし、これに対しては異論が出ております。100~120mg/dlを超えるような非常に高いHDLコレステロールの場合、日本ではコレステロールエステル転送蛋白欠損症に起因するものが多くあります(全人口の1~2%)。この場合、HDL コレステロールが高くなるのはHDLがコレステロールを処理する性能が損なわれてHDLコレステロールが余分にたまっているためです。実際にHDLコレステロールが高くとも動脈硬化が起きている場合があったという報告があります。これはまだ国際的に確立した意見ではなく、日本ではそれなりに支持する人がいるものの、国際的には今でもHDLコレステロールが多ければ多いほど良いと信じている人が多数派のようです。これは、欧米にはコレステロールエステル転送蛋白欠損症そのものが少ないためのようです。
そのような指摘があることを踏まえ、日本人間ドック学会が策定した健康診断の判定ガイドラインでは、HDLコレステロールが120mg/dl以上の場合、(必ずしも病的とはいえませんが)念のため動脈硬化がないか、または他の動脈硬化の危険因子が重なっていないかを精査すべきとしております(※文末に追記あり)。
このように、ある数値を境に病的な状態かどうかを判断するための数値を病態識別値と言いますが、HDLコレステロールの場合には下は40mg/dl以下、上は100~120mg/dl以上を病的と考えるのが普通です。
最近、「基準範囲よりHDLコレステロールだけが高いのですが大丈夫でしょうか? 」と言った質問を良く受けるのですが、HDLコレステロールの数値が100mg/dl未満の場合、95%の人が含まれる数値として示される「基準範囲」より多少高くなっていたとしても問題はありません。
また、HDLコレステロールの数値が100~120mg/dl以上の場合であっても、他の心血管危険因子(喫煙、高血圧、糖代謝異常、LDLコレステロール・中性脂肪の高値)が無く、現状で眼底、頚動脈エコー、脈派伝達速度などで示される動脈硬化性の病変が特に無ければ、心配する必要はありません。