肝機能検査
少し詳しく知りたい方へ
はじめに
人間ドックの各検査項目の中で、肝臓に関連する検査に対する関心には高いものがあります。ところが、他の臓器・器官系に比べ、検査が多岐にわたるためか、今一つ理解しにくいのも確かです。ここでは、人間ドックで行われる肝臓関連の検査について整理するとともに、通常「肝機能検査」と言われる肝臓関連の血液検査をグループ分けして解説してみようと思います。
人間ドックで通常行われる、肝臓に関連した検査を大まかに見ると、
- 肝臓の形態、構造、内部の状況を画像診断として捉える検査
- 腹部超音波断層検査
- 慢性肝疾患の原因の多くを占める肝炎ウイルスの存在の有無を捉える検査
- HBs抗原 : B型肝炎ウイルスについてみる
- HCV抗体 : C型肝炎ウイルスについてみる
- 肝臓の状態を反映する血液検査<肝臓病以外とも関連が深いものもあります>
- AST(GOT)
- ALT(GPT)
- γGT(γGTP)
- ALP
- LAP
- ビリルビン
- LD(LDH)
- 総蛋白
- アルブミン
- コリンエステラーゼ
- TTT
- ZTT
- その他、肝臓病以外の検査で肝臓の状態を反映しうる検査
- 総コレステロール
- 経口糖負荷試験
- 血小板数
などが挙げられ、血液検査の比重がかなり高いのがみてとれます。これらの、肝臓の状態を反映する血液検査を通常、「肝機能検査」と呼んでいるわけです。
前述の検査のうち、腹部超音波検査については別の項目で述べましたし、肝炎ウイルスマーカーについては何のための検査かはそれほど解りにくくはないでしょう。主な血液検査について、簡単に触れてみたいと思います。
各論
AST、ALT(GOT、GPT)
これらは、肝細胞が壊れた時に血液に出てくる酵素です。従って、肝臓の中で起きている炎症の激しさ(活動性)とある程度平行します。その意味で、「肝実質系酵素」「逸脱酵素」などと呼ばれます。
炎症が収まっていても、肝臓自体の病変はすでに進行している場合があります。この時は、基準範囲内でも油断できません。逆に、炎症が激しくても、肝臓自体の機能には余裕がある場合があります。この時は、高値でも過剰に心配することはありません。従って、この検査は重要ではありますが、これだけで肝臓病の重さは判断できません。
γGT(γGTP)、ALP、LAP
これらは、胆管系(胆汁の流出路)と関係が深く、その意味で、「胆道系酵素」と総称されます。何れも、胆汁の流れが悪くなると数値が高くなります。
γGTは最も上流である細胆管の状態を反映する傾向があり、肝細胞が膨れて細胆管が圧迫されるようなアルコール性肝障害や薬剤性肝障害などで高くなりやすい性質があります。γGT=アルコールと言う図式は有名なものです。薬、アルコール以外では脂肪肝などで高くなります。ALPはより太い(下流の)胆管の状態と関係が深いのですが、骨にも大量に含まれており、一部の悪性腫瘍でも大量に出ますので、ALPが骨由来のものか胆管系由来のものかなどを見るアイソザイム検査、あるいはLAPや腹部超音波断層検査などと組み合わせて判断する必要があります。LAPはALPなどより特異性は高いのですが、人間ドックではあまり測定されなくなっています。
※ALPアイソザイムの中には血液型の影響を受けるものがあり、ABO式血液型によって基準範囲を変える必要があるほどです。そのため、基準範囲や病態識別値の策定が困難です。具体的にはB型やO型の方はA型やAB型の人より高い値が出る場合があります。(この段落は2020年7月5日追記)
ビリルビン
黄疸の原因になる黄色い色素です。複雑な処理過程を経て胆汁に捨てられますので、血液疾患、体質性黄疸、肝細胞障害、胆汁うっ滞など様々な原因で数値が高くなります。
※抗酸化作用があるためある程度までは良い面があるという考え方が出てきておりますため、病態識別値の策定が困難です。少なくとも、軽度(3mg/㎗未満)の体質性高ビリルビン血症には問題はありません。(この段落は2020年7月5日追記)
LD(LDH)
この酵素も肝炎などの細胞障害で数値が高くなるのですが、呼吸に関連する酵素なので色々な組織に含まれており、血液、リンパ節、筋肉、肺、心臓など、肝臓以外の病気の消長を反映して変動することが多い酵素です。この酵素もどの臓器由来かを示すアイソザイム検査が有用です。
総蛋白、アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロール
何れも肝臓で作られるものを測定することにより肝臓がものを作り出す力(合成能)を評価します。肝臓の生産高と言う訳です。もちろん、肝臓は予備力の大きい臓器で、80%切り取っても生きられるくらいですから、よほど悪い状態でないと、肝疾患によっては低下しません。身体のその他(肝臓以外)の代謝状態による変動が大きいので要注意です。
TTT、ZTT
血液中の免疫グロブリンの量と関係が深く、慢性肝炎ではしばしば免疫グロブリンの量が多くなるので、補助的な診断に使います。血液の病気や膠原病など、免疫グロブリンの状態が変化する状態で数値が変動するので、これが高いからと言って即肝臓病とは言えません。特に単独で数値が高い場合には肝臓病以外のことが多いので注意してください。
※特異度が低い、代替の検査があるなどの理由により、2018年度の診療報酬改定によって保険点数の算定対象外となり、メーカーでの試薬製造も終了しており、現在では測定されなくなっております。(この段落は2020年5月17日追記)
おわりに
以上、主な血液検査について解説しましたが、何のことやら解りにくい、と言うのが実際のところではないでしょうか。しかし、これらの検査を解釈する時の原則にはある程度共通のものがあります。
- どの検査にも固有の特徴があり、反映されている肝臓の状態は異なるので、一つの検査だけでは判断できず、必然的に組み合わせ診断となります。
- 肝臓以外の臓器や器官系の状態によって変動することも多いので、肝機能検査の異常すなわち肝臓の異常とはいかない場合も多いです。
- 数値の高さと重症度は必ずしも一致しません。
- 個人差がかなり大きいです。
- 一度の検査ではなく、時間経過の中で判断しないといけない場合が多いです。
ですから、数字だけに一喜一憂してはいけません。具体的な個々のデータの解釈例についてはここでは触れられませんが、ご容赦ください。