人間ドックについて

注意すべき用語

誤解されたり、分かりにくい用語のリスト

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人間ドックでは、受診者が自分の現在の状況を正確に伝えるためにも、また医師・看護婦・保健婦・栄養士といった人たちの話を正しく理解するためにも、ある程度の医学用語についての理解が必要です。ですが、一般に慣用されているものと意味が違ったり、意味が分かりにくかったりする用語もあります。誤解しやすい、あるいは間違いやすい用語の例を下に挙げてみたいと思いますので、注意してみてください。

貧血

本来は、血液中の血色素濃度が低い状態を指します。検査では、ヘモグロビンの数字が低い状態です。血が薄い状態と考えてください。

ところが、問診表で貧血に印をつけた人に聞くと、立ちくらみで目の前が真っ暗になった、などの状態を指していることがあります。これは、起立性低血圧などで脳に十分に血液が流れなくなった結果起きる症状のことが多く、そうであれば、脳虚血と表現されます。「血が貧しい」状態と「血が虚ろ」な状態は全く違うものです。

貧血と診断されたのであれば「貧血」と言うのは構いませんが、症状を述べる場合には「貧血」とは言わず、状態をそのまま表す言葉で、「立ちくらみ」、「気を失った」、「動悸、息切れがひどい」などと述べてくださると助かります。

不整脈

医学用語としての不整脈はきわめて幅が広いものがあります。心臓のペースメーカーとして歩調を取っている部位がずれている場合(調律異常)、予定より速いタイミングで別の場所から信号が出てしまう場合(期外収縮)、途中で信号がブロックされてしまう場合(ブロック)、全く不規則な間隔で心房の興奮が心室に伝わる場合(心房細動)、全く心臓全体の統制が取れなくなる場合(心室細動)、心拍が速くなる場合(頻拍)、心拍が遅くなる場合(徐拍)など、心臓の電気現象が規定からずれた状態になる現象はすべて不整脈という表現で括られてしまいます。

ですから、脈が規則的な不整脈、というのはパラドックスでも何でもありません。また、放置してもどうということもないものから、放置すれば3分後には死が待っているものまで、ピンからキリまで本当にさまざまです。

ですから、不整脈と言われた時には、その正確な診断名を確認するか、病気の成り立ちについての説明を受けておいてください。ただ単に「不整脈ですが心配ありませんと言われました」だけでは、次に診療する医師は何があったのかわかりませんし、病歴としても役に立ちません。一生最初に診断を受けたところに任せてしまうのならともかく、他の医師にかかることもあるでしょうし、人に説明する時にも困ってしまいます。せめて、期外収縮であれば、「上室性期外収縮」だったのか、「心室性期外収縮」だったのかが分かるだけでもずいぶん助かります。

脂肪肝と肝脂肪

超音波断層検査などで過去にどのような所見が出たか尋ねますと、「肝脂肪」とおっしゃる方が多いのですが、「脂肪肝」というのが病気としての名前です。

肥満(栄養過剰)やアルコールなどの影響で肝臓の組織に脂肪が病的に蓄積する現象を「脂肪化」と言います。「脂肪化」した肝臓なので「脂肪肝」と言います。逆に、もし「肝脂肪」と言ってしまうと、肝臓にある脂肪の意味になってしまい、必ずしも病気は意味しません。普通でも肝脂肪は肝臓の重量の10%は存在します。もっとも、「肝脂肪が多い」と言われた、と言うのなら病気を表すのに正当な言い方です。

脂肪を形容詞として使うのが妙な感じがするので「脂肪肝」と言われても、頭の中では「肝脂肪」になってしまうのでしょうか。英語ならfatty liverとliver fatは違うと言っても通じるのですが。

嚢胞

超音波断層検査で良く出てくる言葉です。しかし、聞いただけではどのような意味なのかわかりにくいのか、腫瘍ではないか、とパニックになる方も意外と多いようです。

臓器に袋状の構造が出来て、そこに液体が溜まった状態を指します。イメージとしては、昔1個5円くらいで、ゴムの袋にアイスキャンデーと同じものを固めて「おっぱいアイス」と称して売っていたのですが、あんな感じの構造です。

腫瘍が嚢胞を伴う場合もありますが、ただ単に1個だけ見えて中身がない場合は「単純性嚢胞」という、ただ単に嚢胞が出来てしまったとしか言いようがない病変のことがほとんどです。その場合には余り気にしないものがほとんどです。大きくなって臓器を圧迫したり、破裂しかねないものはともかく、様子を見て良いものが多いです。

ただし、エヒノコッカス症などでできる特殊な嚢胞もあります。また、内部に腫瘍らしき構造が見えたり、出血していたりする場合も大至急検査が必要ですので、こういうものには注意が必要です。

なお、この用語は「のうほう」と読みますが、「のう」を膿だと思う人が意外と多いです。もし膿が溜まっていればそれは膿瘍(のうよう)といいます。超音波断層検査でも見え方が全く違います。

ポリープ

受診者の皆さんの中には、この言葉を言われると真っ青になる方もいらっしゃるようです。癌や腫瘍を疑った場合の遠回しな言い方、というように思い込んでいる方が今でも多いみたいです。1990年くらいまではこのような物言いも多くみられました。しかし、最近では(特に治療可能な場合)癌は癌である、と素直に言うことが多いので、ポリープという言葉もほとんどの場合が本来の意味で使われるようになりました。本来、この言葉は形態に対して与えられるものであって、その内容は別に何であっても良いのです。

具体的には、袋状や管状になっている臓器にできた、丘状、豆状、きのこ状の形をした構造で、それが腫瘍であるかどうかには関係なくポリープと呼びます。癌の場合は癌性ポリープ、腫瘍の場合は腫瘍性ポリープ、単なる組織の増殖の場合は過形成性ポリープ、胆嚢に出来たコレステロールの塊の場合はコレステロールポリープなどと言ったりします。

ですから、「ポリープ」といわれただけではそれが何であるかは分かりません。腫瘍なのかどうか、悪性なのかどうかは採取してみなければ分からないことも多いです。ポリープと聞いただけで癌だと思って早合点しないように注意してください。また、説明を受ける際には最低限、そのポリープは腫瘍だったのかどうか、また腫瘍だった場合悪性だったのかどうかを確認してください。「良性」と言われた場合でも、それが良性腫瘍だったのか、腫瘍でさえなかったのかを確認する必要があります。

また、肝臓などの実質臓器(身が入った臓器)の内部にはポリープは出来ません。肝臓の腫瘍や嚢胞を「ポリープ」などと言ったりしないように注意してください。

他にもあるでしょうが、気が付き次第追加していきます。