記憶に残る車両:381系電車

伯備線で181系気動車の話が出れば、それとの対比で電化後に走った381系電車の話になるのは当然だろう。4回連続で国鉄車両の話になってしまうがご容赦を。

この形式の特色と言うと、何と言っても振子機構を装備し、曲線では車体を内側に傾けて遠心力を打ち消し、乗り心地を損なわずにより高速な運転が可能*1ということであり、中央西線の特急「しなの」、伯備線の特急「やくも」などに投入されて成果を上げた。

いまでこそ車体傾斜式の車両や振子式の車両は随分増えているが、当時は画期的なものであり、注目を集めていた。

その381系に乗車するチャンスは意外と早くやって来た。1983年、前年に電化されたばかりの伯備線の特急「やくも」に乗車した。

特急にしてはずいぶん簡素な車内設備だと言われていたが、それは別に気にならなかった。簡素化され、軽金属やプラスティックが多用された車内設備がかえって近代的な印象を与えていたからだったと思われる。

実際乗車してみると、ディーゼル特急だった頃に比べ「やくも」の飛ばすこと飛ばすこと。だが、乗り心地向上のための振子機構がかえって眩暈感を生じているような感じがした。座っていれば気付かないのだが、立って歩くと何だか宇宙遊泳をしているような感じがした。

元々乗り物酔いには強いし、遊園地の乗り物みたいで面白かったが、便所に行ったら驚いた。吐物処理のための袋(未使用)が30個以上も洗面所に積んであったのだ。国鉄は乗客のうち20人〜30人もが吐くという前提で電車を運転して居るのか!? とびっくりした。乗りあわせた地元の人に聞いたところ、半分の乗客が吐いたことさえあったし車掌でさえ吐いたこともあったと言う。その代償がたった30分ちょっとの時間短縮なら、電化なんか要らなかった、とその人は国鉄に対して怒っていた。

今その時の乗り心地を振り返ると、カーブではカントの分だけまず傾き、遅れてぐいっと車体が倒れていくので、遠心力とは逆側にことさらに倒されている感じがしてかえって変な感じだった。S字カーブではぐらぐらしてまさに眩暈感になってしまっていた。いわゆる振り遅れが生じていたわけである。

2001年に伯備線にもう一度乗る機会があり、この時も381系電車だったが、路線が改良されたのか、車両が改良されたのか、以前のような変な乗り心地ではなく、もはや吐く人の姿も見かけなくなっていた。また、2002年に乗車した283系気動車では根室本線でのカーブの連続でも変な乗り心地ではなかったから、この間に振子車両の改良*2が物凄い勢いで進んだことは疑いようがないところである。

曲線の通過速度を向上しても乗り心地を損ねないために採用されたはずの振子機構が皮肉な結果となった381系であるが、改良された近年の振子車両による到達時間の短縮はJRの競争力向上、ひいては鉄道の生き残りに貢献しているのは間違いなく、その基礎になったと言う意味でも後々までも印象に残る車両である。


*1 振子がない車両でR=400mを140km/hで通過したとしても脱線の恐れまではなく、もっぱら乗り心地の問題でスピードを落としていると言われている。振子中心が車体重心より高い場合、重心が曲線の外側に出てレールにかかる横圧はかえって大きいと思われるので、脱線についてはわずかながら不利な点もある。

*2 制御付き振子機構に見られるように、あらかじめ曲線のパターンを記憶しておいて適切な角度に車体を最初から傾けておくといった改良がなされている。