イラク問題

日本がイラクに自衛隊を派遣し、軍事的に「存在」し復興支援を名目に活動している。これは日本が明瞭にアメリカ陣営に属することを示しており、そのことを非難する人も少なからずいるようだ。

イラク問題の場合、戦略物資である石油の利権が絡んでいるので、国家間の合従連衡が非常に分かりやすい。従来イラクの石油の利権はロシアやフランスに握られていて、ドイツはロシアに石油の50%を頼っている以上、この3カ国が共同歩調を取ったのは全く自然なことである。一方、アメリカ側についている国は日本のほかにはイタリア、オランダ、イギリス、ポーランドなどであり、これらの国々にとってはイラクの石油の利権をメジャーが奪っても不都合が無い(もしくはその方が都合がいい)わけである。さらに、日本がアメリカの要請に応じて自衛隊を展開することで、日本がイランで参加しようとしている油田開発を黙認しようと言う密約がアメリカとの間にある、との報道があったが、それが真実であれば、さらに話が分かりやすい。

こういう戦略物資の利権の確保絡みで軍事力を展開することを、第二次大戦と変わらない古い構図だ、と言って非難し、「小泉政権は好戦的だ」という話の論拠にする向きがあるようだが、そういう人たちは、日本が何故第二次世界大戦を戦わざるを得なかったのか、そして戦争序盤でせっかく確保した油田地帯からの石油の輸送と補給を軽視したために、旧日本陸海軍がどれだけ苦戦し悲惨な戦いを行ったかを知らないか、あるいはあえて無視しているのだろうか。

旧日本海軍の艦隊や艦艇が余りにも艦隊決戦向きに出来ていて、「大艦巨砲主義」と言われたのはよく知られている。しかし、本当に取るべき戦略はタンカーを護衛する護衛駆逐艦、そして対潜対空防御を担う防空駆逐艦の大量建造だったはずである。遅れ馳せながら昭和19年から大量建造された「松型」の護衛駆逐艦がもし昭和18年までに大量に投入されていれば、シーレーン輸送が途絶するのはもう少し遅かっただろう。あるいは昭和21年まで持ちこたえたかもしれない。そうすれば、駄目押しの原子爆弾が投下される前に講和できたかも知れない。それに加え、戦地における石油の陸揚げ施設の性能がアメリカ並みだったら、あそこまで泥沼の戦争にならなかったかもしれない。

石油の確保と輸送、そして円滑な陸揚げは戦時における生命線であり、それが出来なかったから第二次世界大戦は悲惨な戦争になったのだ、と肝に銘じているからこそ、いまあえて小規模の軍事力を派遣するのだ、と考える人がどうして居ないのだろうか。原油の流れから孤立して、将来自暴自棄の戦争を起こすようになれば、それこそ第二次世界大戦の二の舞である。そういう最悪の事態を避けるために軍事力を動かしたのであれば、今小規模な軍隊を派遣するのは好戦的だからではなく、かえって平和を考えたことになると思うのだが。まして、今回は戦闘行為が目的ではなく、あくまでも(名目上にせよ)復興支援が目的であり、存在することそれ自体で十分に意味がある。

また、石油以外にも、日本にはアメリカ側に立たなくてはならない地政学的な条件がある。日本にとって最悪のシナリオは、中国による台湾の武力併合+北主導の朝鮮半島(韓半島)統一が連動することであり、どう考えてもアメリカの軍事的プレゼンスが欠かせない地政学的な条件にある。これとよく似た立場なのがポーランドである。ドイツとロシアの間で翻弄されてきたこの小さな国は、現在日本以上にアメリカと緊密な関係を築いている。ポーランド軍も日本と同じようにイラクで活動しており、日本以上に犠牲を払っている。すでに犠牲者も出ているようだ。ポーランドが何故そうするかを考えれば、日本の取るべき方向も明らかであろう。ちなみに、ポーランドはトルコ、台湾などとともに数少ない親日国である。第二次世界大戦でソビエトに取り残されたポーランド人孤児の救出に唯一尽力したのが日本だったとの歴史もあるが、やはりロシアと対峙する仲間だとの意識があるのだと思う。

自国のことだと感情的になって話が分かりにくくなるものであるから、イラクへの自衛隊派遣の是非を考える前に、ぜひ東欧の小国であるポーランドのことを考えてみて欲しい。彼らが何故アメリカと緊密な関係になったのかを。そして、アメリカが絶対的な悪なのではなく、各国がそれぞれの国益を考えて上でどの国と共同歩調を取るかを決めているという当たり前の事実を考えてみて欲しい。

従って、私、当サイトの管理人としてはイラクへの自衛隊派遣は必要であると考える。そして、自衛隊の方々には是非無事で帰還して欲しいと切に願う。存在して何らかの活動をするだけで、十分任務を果たしているのだから。

しかし、派遣する人数を決める際の与党の行動はどう考えてもおかしかった。情勢悪化で700人を1000人(ほぼ1個大隊)に増加しようか、というのならともかく、600人に削減してしまったのだから。これで小泉政権の限界が見えたような気がした。