トゥガン・ソヒエフ辞任の報に接して

MCS Young Artistsのブログ2022年3月7日付け記事「トゥガン・ソヒエフがトゥールーズとボリショイの両方を即時辞任」によると、

トゥガン・ソヒエフはフランスのトゥールーズ市長より、今月18日、および25日のコンサートに先駆けてウクライナの状況について意見を出すよう求められ、その回答としてトゥールーズおよびボリショイのポジション両方を即時辞任すると公表しました。

ロシア政府を非難しなければトゥールーズの職を失い政府寄りだと断罪される可能性があり、反対に非難すればボリショイの職を失うのみならずロシア国内の家族や友人たちに危険が及ぶ可能性がある。いずれの選択肢にも、おそらくきびしい結果が待ちうけていました。

MCS Young Artistsのブログ2022年3月7日付け記事「トゥガン・ソヒエフがトゥールーズとボリショイの両方を即時辞任」より

とのことで、有名な指揮者であるソヒエフがロシアのウクライナ侵攻に関連してフランスとロシアの両者から旗幟を鮮明にするように求められて板挟みとなり、その結果フランスとロシアの両方で音楽監督を辞任する結果となったということのようです。

ソヒエフがこの件に関連して出した声明が同記事にも和訳されて引用されており、

まもなくチャイコフスキー、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチとベートーヴェン、ブラームス、ドビュッシーのどちらかを選ぶよう、私は求められるのでしょう。ヨーロッパの国であるポーランドでは、すでにロシア音楽が禁止されています。

私は私の仲間、アーティスト、俳優、歌手、ダンサー、ディレクターたちが脅され、不当に扱われ、いわゆる「キャンセル文化」の犠牲になっているのを目撃するのは耐えられません。私たち音楽家は、偉大な作曲家の音楽を演奏し解釈することによって、人類がお互いに思いやりと尊敬の念を持ち続けるための特別な機会と使命を与えられているのです。私たち音楽家はショスタコーヴィチの音楽を通じ、戦争の悲惨さを思い起こさせるため存在しているのです。私たち音楽家は、平和の使者なのです。私たちや私たちの音楽が国や人々を結びつけるため用いられるのではなく、私たちは分裂させられ、追放されているのです。

以上のような理由から、そして愛するロシアの音楽家と愛するフランスの音楽家のどちらかを選ぶという不可能な選択肢に直面させられたことから、私はモスクワのボリショイ劇場とトゥールーズ・キャピトル国立管の音楽監督の職を即刻辞任することにしました。ボリショイ劇場のアーティストやトゥールーズ管の音楽家と知り合うことができた私は、とても幸運な人間でしたと関係者全員に申し上げたい。2つの団体の素晴らしいアーティストたちと音楽を作ることは常に特権であり、私は常に「音楽家」として彼らの側にいます!!!!!!!

https://www.facebook.com/tugan.sokhiev/posts/645276676586416

とあり、ロシア音楽及びロシア人の音楽家がどのような立場にあるのかが窺われる。

たとえウクライナがどのような国であったとしても、ロシアという国家がウクライナに侵攻し、ウクライナ国家とウクライナ民族を消し去る目的で虐殺を行ったという事実は許容されないし、世界中でロシアが憎悪の対象になることも当然あるだろう。しかし、だからと言ってチャイコフスキー、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチといったロシアの大作曲家の作品がアンタッチャブルな存在にされ、果ては禁止され弾圧されるというのは納得しがたい。

確かにプーチンはスターリンの再来としか思えないことをやっているが、そのスターリン支配下のソ連を生き抜いたショスタコーヴィチの音楽までもが消し去られるのは、いくらロシアが行ったことの反作用としても耐え難いことである。