昨年末の安倍総理の靖国参拝には驚いたが

2013年12月26日、安倍総理大臣が靖国神社を参拝した。このニュースが伝えられたとき、正直言って安部総理は実はリアリストではなくファンタジストなのではないのかと思って不安になってしまった。

中華人民共和国がますます昭和初期の日本に似て、軍部の意向を誰にも止められない国になりつつある今、日本がすべきことは一刻も早い軍事力増強であって、そのためには他国に「日本は第二次世界大戦後の体制を変革しようとしている存在である」との警戒感を持たれる前にどれだけ軍備を増強し、対中軍事同盟を構築できるかに国家の存亡がかかっているはずなのに、安倍総理は自らの公約を優先してしまった。これは中華人民共和国、アメリカ(の親中派)、英国などに根強く残る、第二次大戦の戦勝国であることを存在基盤にしている勢力に格好の攻撃材料を与えてしまったのではないか、そう思えてとても不安*1になった。彼らの力を甘く見てはいけない。もし中国が東アジア、東南アジア、南アジアの支配者になったら、日本、台湾、ASEANの全加盟国、インドにとっては泣くに泣けない滅亡の危機である。

軍事力の強化は相手が警戒感を持つ前に有無も言わせず進めてしまうのがベスト。その意味で中華人民共和国が無茶をしてくれているおかげで、日本の恐さを良く知っていて日本を押さえ込みにかかってきても不思議ではないアメリカ*2が、集団的自衛権と軍事費増額を容認どころか催促してくれてさえいる。こんな好環境をぶち壊してしまった安倍総理は国家の存続よりも自分の信念を優先するファンタジストだったのかと思ってしまい、アメリカ大使館以上に安倍総理に対し失望してしまった。

在日アメリカ大使館が表明したその「失望」であるが、いろいろな解釈があり得るが、日本に軍事的な役割を期待する人にとっては、靖国に参拝する前に実力を付ける方が先だろう、敵に軍備増強の動機を与えてどうするのか、という意味あいが強いように思えた。日本の集団的自衛権が日常的に行使され、日本・アメリカ・インド・オーストラリアの(軍事同盟とは言わずとも)軍事協力が機能し、シーレーン防衛のための共同作戦が実行に移されるようになるまでは、余計なことをしてくれるな日本、というのがアメリカの親日派の気持ちなのではないだろうかと思う。

純軍事的に見れば、戦争の準備と言うのは如何に相手を刺激せずに気が付いたときには圧倒的な差がついている、というのが理想で、敵が油断しているうちに敵の1.7倍以上の実力を付ける必要がある。示威行為としてならともかく、今の日本にとって中華人民共和国を挑発してどうなるのか、靖国参拝と言う形で中華人民共和国に日本のことをアピールするのは、もっと日本が軍事的に強くなってからすべきことだろうと考えたのであった。

ここまでが年末の時点で自分が思ったことであった。

そうした意味で、Wedge Infinityの2014年1月7日付の記事「靖国参拝を米国が許容できない理由」は自分の懸念を裏付けるものだった。曰く(長文注意)、

要は、米国では、靖国神社とは、A級戦犯の合祀や、敷地内の資料館「遊就館」の展示を含め、戦前の日本の行為を正当化する象徴的存在なのである。つまり、そこに日本の総理が参拝することは、事後にどのような説明があったとしても「第二次世界大戦前の日本の行為を正当化する歴史観の肯定」であり、サンフランシスコ講和条約以降の国際秩序(当然、日米安全保障体制もその一部に含まれる)の否定につながる。これは中国や韓国の反応を抜きにして、米国として許容できないものなのである。

さらに日本の総理が靖国神社に参拝することで、中国や韓国に「日本の軍国主義化」について大騒ぎをする絶好の口実を与えることになり、日本にはこれからアジア太平洋地域で安定した安全保障環境を作り出すために一層、安全保障分野での役割を拡大してもらいたいと考える米国にとっては非常に具合が悪い。つまり、日米同盟をこれから深化させていきたいという米国の意図が本物であればなおさら、日本の総理大臣による靖国神社参拝は敵に塩を送るに等しく、「百害あって一利なし」の行為なのだ。

(中略)

それにも拘わらず先月、安倍総理が靖国神社参拝に踏み切ったことで「安倍は個人の信条を日米同盟の将来や日本の国益に優先させる指導者なのか? そうだとすると、尖閣諸島で状況が緊迫するようなことがあった場合に、理性的な対応をしてくれることを本当に期待できるのか? わざと中国を挑発するような行為に走らないといえるのか?」という不信感が湧き上がっている。「大局的判断よりも自分の思い入れにこだわる指導者を米国は信頼できるのか? そのような人物がけん引する日本という国との関係を強化することで、米国がリスクを抱え込んでしまう可能性はないのか?」というわけで、米国の東アジアにおける立ち位置を考慮したうえでの「日本リスク論」が首をもたげているのである。

Wedge Infinity「靖国参拝を米国が許容できない理由」 より

世界大戦によって出来上がった秩序の改変は、通常は新たな世界大戦の勝利によってしかなし得ないはずである。それを安倍総理は平和的にやろうとしているのだから、この困難な大事業はよほど慎重にやってもらわないと、すべてが水泡に帰するのではないかと、これを読んで改めて心配になった。

しかし、あれから2週間が過ぎたが、意外と中華人民共和国の反応が大人しい。もしかすると、中華人民共和国から見た日本の評価は意外と強いのかもしれない。とりあえず安倍総理は靖国参拝問題を最小のダメージで切り抜けたようにも見える。

だが、日本人としての精神性の問題よりも何よりも、回避できない戦争には負けてはならず、国力増強こそが第一義であることを安倍総理大臣には忘れないでいて欲しい。筆者としては、まともに軍事力を考えてくれるであろう唯一の総理大臣であるからこそ、安倍総理大臣を支持しているのであり、リアリストで無くなったと判断した時点で、安倍総理大臣を支持しないことになるのだから。


*1 とても不安:これは全くの邪推だが、彼らは本音では「横暴な中国の方が戦勝国である分、戦敗国の癖に野心家の日本よりもまだましだから、西太平洋は中国に任せて日本を中国に支配させるのがいい。アメリカは西太平洋からは撤退すれば軍事費が節約出来るし、失うものは何もない。そもそもイエローモンキーを守ってやる義理なんかないのだ。」などと考えかねないような連中のように見える。

*2 日本の恐さを良く知っていて日本を押さえ込みにかかってきても不思議ではないアメリカ:いわゆるビンのフタ理論。