福島原発のプルトニウム報道について考えてみた

「世界中で大問題になっているプルトニウム。日本政府、大手メディアだけが安全だと言い続けている。」というような物言いを良く見かけるし、既存メディアが東電の接待を受けて「安全デマ」の流布にこれ努めている、という非難も声高く叫ばれている。

しかし、私が見る限り、「プルトニウムが安全である」などといっているメディアはどこにも存在しなかった。実際の報道内容としては、NHKを見る限り、

  1. 3月21から22日に採取した土壌中のプルトニウムを測定したところ、検出されたプルトニウムの濃度は国内の通常の土壌に含まれる濃度とほぼ同じレベルで、人体に影響のあるレベルではなかった。
  2. プルトニウムは、ガス化しない物質として重い固体なので飛散はしにくい。

ということのようである。実際はどうなのか。簡単に計算して確認したい。なお、専門外の領域なため、重大な計算ミスが無いとも限らないことをお断りしておく。

まず、検出されたプルトニウムのレベルであるが、大まかに検算してみると、

  1. Pu-238の半減期は87年、Pu-239の半減期は24,000年。
  2. 1Bq当たりの質量を求めると、Pu-238は1.56e-12(g)、Pu-239は4.33e-10(g)。
  3. 検出されたPu-238は0.54Bq/kg、Pu-239は0.27Bq/kgとのことなので、これを質量に換算するとPu-238については土壌1kg当たり10のマイナス12乗グラムのオーダー、Pu-239については土壌1kg当たり10のマイナス10乗グラムのオーダーとなる。
  4. Pu-238、Pu-239の実効線量係数は吸入の場合1.1〜1.2×10^-4Sv/Bq、経口摂取の場合2.3〜2.5×10^-7Sv/Bqとのこと(緊急被ばく医療研修のホームページによる)。この数値には内部被曝と外部被曝の差、吸収形態の差、半減期の長さの差はすでに織り込まれている。

いくらプルトニウムといえども、このくらいの被曝では健康障害は出そうに無いと思われる。実際、この程度の量で有意に発癌が増えたという報告は見つけられなかった。1マイクログラムのプルトニウム投与で動物の発癌が増えたというが、ここで考えている量はそれより4オーダー以上も低い量である。発電所構内のサンプルでこの程度であるから、その意味では発電所外部の環境汚染はまだ問題にするレベルではなさそうである。

一方、プルトニウムの飛散についてであるが、基本的には揮発性のない固体なので、原子炉がよほど高温になって金属プルトニウムのヒュームが出来るか、原子炉が爆発するかしない限り大量飛散はないと考えて良いだろう。その意味で、現時点では「ガス化しない物質として重い固体なので飛散はしにくい」という説明は間違ってはいないようである。また、「過去の核実験で飛んだプルトニウムが環境中にバックグラウンドとしてあるのに、プルトニウムが飛ばないという説明をしているのは矛盾だ」という人が多いが、核実験の場合は成層圏で爆発したものが飛んできているので、今回の場合には当てはまらない。

それでは、フリーのジャーナリストたちは「危険デマ」を流したのだろうか。そうではないと考える。以上の説明には重大な点がいくつか抜けている。

  1. 構内で作業する人の安全の話が抜けている。作業員が呼吸している空気の作業環境測定について説明がなされていない。また、必要な防護処置がとられているかどうかについての説明が無い。
  2. 現在は大丈夫でも、どうなったら危険なのかの説明が抜けている。
  3. 最悪、水蒸気爆発が起きた場合、この話の前提がすべて壊れてしまうが、その場合のプルトニウムの飛散防止策についての説明が無い。

よく反原発運動の人がするような、「プルトニウムがたとえ1原子でも漏れれば肺癌になる」というような物言いは明らかに「危険デマ」であるが、将来の見通しを示さないで「これまでのところ心配ありません」だけ言っていても「安心デマ」とまでは言えないが不誠実の謗りを免れない。

プルトニウム以上に深刻なのが高濃度に汚染された大量の排水の処理に目途が付いてないことであるが、とっくの昔にこちらについても何らかの方向性が示されないといけない時期に来ていると考える。

追記

以上のように書いたが、ようやく作業環境の改善にも目が向けられるようになってきたようだ。また、事態の打開に向けたアイデアも出始めたようである。また、各国の支援も入り始めたとのこと。何としてもこれ以上の環境汚染と原子炉の爆発だけは回避しないといけない。