初音ミクで大騒ぎになっていますが

「初音ミク」というソフトウェアヴォーカル音源がすさまじい売れ行き*1になっているそうです。発売元であるクリプトン・フューチャー・メディアさんのサイトにあります、初音ミクの紹介ページでデモソングを聴くことが出来ますが、これが合成音声だとは思えないほどの品質です。ソフトウェアのみでここまで歌えてしまうことに、目からうろこが落ちた気がしました。ヤマハの基礎技術って凄いんだな……、とただただ感心するばかりです。

パッケージに描かれた初音ミクのイメージイラストと音声データを提供した声優さん(藤田 咲さん)の相乗効果で、萌え系として受け取られてしまうこのソフトですが、個人の創作活動に与えるインパクトを考えると、これはとんでもない可能性を秘めたソフトで、萌えている場合じゃない、という気にさせられます。

DTMに手を染めた人の中でも、ヴォーカリストが知り合いに居ないばっかりに、器楽曲は作っても声楽曲は諦めていた人は少なくないと思います。そんな人でも、仮歌として旋律を歌わせて試してみることが出来る、それだけでも意味があることだと思います。創作や研究の幅が広がることでしょう。

また、アマチュアの創作活動*2を「下手の横好き」として評価しない向きがありますが、例え下手な作曲しか出来なくても、作曲するということそれ自体で見えてくるものがあります。和声法や対位法の何たるかを少しでも理解できたり、今までクラスターとしてしか知覚できなかったオケの各パートが明瞭に聴き分けられるようになったり、各パートの連携を有機的に実感できたりすると、音楽鑑賞がさらに楽しくなります。下手な作曲でも、聴衆に回ったときに効果を実感できます。

音楽鑑賞ということを考えなくても、携帯電話の着信音を自作したりして、「なければ自分で作る、単なる消費者のままではいない」という生活を送るのは、現代においては得がたい経験になるでしょう。

このように、それ自体は下手な創作でも、それをすることで生活が精神的に豊かになるのがDTMという趣味の良いところだと思います。DTMをする人にとって、ヴォーカルが他の音源と同じように扱えるようになる、それが如何に画期的なことか。その意味で「VOCALOID2 キャラクターボーカルシリーズ」の第一弾である「初音ミク」は待ちに待ったソフトといえます。たとえ声優さんの声質が可愛い系に片寄っていたとしても。

ちなみに、「初音ミク」の得意な音域はA3-E5とのことですが、中学生だった頃の筆者が得意だったのはC3-E5でしたから、あの頃このソフトがあったならユニゾンで歌えたことでしょう。もう中年になった今では無理です。

ところで、クリプトン・フューチャー・メディアさんは札幌の会社とのことですが、このソフトは何となく札幌らしさを感じさせます。その斬新な自由さと萌えの両立という点において。私の持つ札幌という都市のイメージに良く合っています。


*1 すさまじい売れ行き:DTM関連のソフトが2万本も売れるなんて……信じられません。

*2 アマチュアの創作活動:参考文献として、Studio RAIN’s diary(http://studio-rain.cocolog-nifty.com/blog/)の2007年10月25日付のエントリー「芸術におけるアマチュアリズムの意義」を挙げたいと思います。