記憶に残る車両:711系電車

1968年、北海道の国鉄にもついに電車が走ることになり、まず小樽-滝川間が電化された。翌1969年には電化区間は旭川まで延び、以後普通列車から急行列車にまで大活躍したのがこの711系であった。

図 711系電車

711系については北海道の銘車データバンクというサイトに詳しく記載されているが、当時9歳の小学生にとっては難しい理屈はどうでも良くて、それまでのキハ22に代表される暗くて狭く鈍重な車両が一挙に711系の明るくて広くて軽快な車両に変わったことがとにかくうれしかったのである。

とにかく国鉄電車というものがめずらしく、そうかといって急行に乗りに行くだけの資金もなければ時間もなく、それでもやはり乗ってみたい、ということで当時小学生だった私が目を付けたのが、当時急行「かむい」の急行区間は札幌-旭川間であり小樽-札幌間は普通列車だったこと。札幌-琴似間の当時の運賃30円(小児10円)なら札幌駅までのバスの運賃を加えても小学校4年生の小遣いの範囲内、ということで札幌駅までわざわざ行って乗って来た。

前述した北大鉄道研究会のサイトによれば、

現在の711系を形作るイメージの中で、最も鮮烈なのが「起動加速の悪さ」ではなかろうか。711系電車は、現在の国鉄の電車の中でも、群を抜いて起動加速度が低く、公称でも、僅かに「1.10km/h/s」である。実際の運転曲線査定に使用されているのは「1.00km/h/s」程度であるが、このほうが運転の実態に即しているように思う。

北大鉄道研究会のサイト より

とのことであるが、札幌-琴似間のように短区間、しかも間に桑園駅があるからこの起動加速では(今乗れば)相当鈍重な印象を受けるはずなのに、実際にはすごく軽快な走行に感じて感激してしまった。そうはいっても気動車よりまし、ということなのだったのだろうか。何より気に入ったのが、ゆったりとしたシートピッチと座席の幅。小学校入学前まで内地で育った関係で、昔乗り慣れた401系電車とつい比較してしまい、内地よりも凄い電車だ、という印象が刷り込まれてしまった。実際、401系は座席は狭いし、3扉セミクロスシートだし、いかにも普通電車という感じだった。デッキもある711系は急行電車のように感じられ(実際急行としても活躍した)、格好良く見えたものだった。

北海道を離れたのは1973年。道内在住中は何故か最後まで急行「かむい」には乗らずじまいだった。711系の急行に乗ったのは何と1979年、稚内からの急行を旭川で降りてわざわざ電車急行に乗り換えた時だった。すでに特急に客を奪われていたのか、ろくに人が乗って居なかったのが時代の変化の速さを感じさせたが、まだまだ軽快な走行感は健在のように思った。 前述のサイトより引用すれば、

反面、高速域での加速度は、他の国鉄電車並み、あるいはそれ以上の性能を有している。先にも記したとおり、711系電車は、サイリスタ位相制御による高粘着特性を遺憾なく発揮することで、起動時から高速域までの引張力をほぼ一定とし、ほぼ一定の加速度が得られるようにしている。
711系では低速域での加速を犠牲にしたぶん、定格速度は73.0km/hときわめて高い値が採用された。この結果、73.0km/hまでの一定加速が可能となり、公称値ではあるが、80km/hまで78秒で到達できる性能が確保された。

北大鉄道研究会のサイト より

とのこと。確かに高速性能がかなり良いように思えた。これならまだまだ急行としては恥ずかしくないと思ったのだが、その頃には乗客の特急志向は明らかであった。急行の衰退が全国規模で進んでいて、いずれこの列車も無くなってしまうのは明らかのように感じられ、非常に寂しいものを感じた。

だいぶ数を減らしたものの、今でも711系は健在とのこと。今度室蘭に行った時にでもまた乗ってこようと思っている。最初の量産型のデビューから36年、1980年の第三次の増備からでさえすでに24年。よく頑張って来たものだと思っている。