はじめに
自己紹介として好きな音楽を書こうとしたら意外と多かったので、雑記帳として独立させることにしました。ほとんど全部古典音楽ですが、そればっかり聴いているわけではありません。気が向けばメタルロックとかも聴きます。ですが、やっぱりクラシック系のアコースティックな音楽が一番好きですね。そして、こうやって並べてみると、ベートーヴェンが質・量ともに圧倒的なのに改めて気付かされます。
ところで、ある音楽が異常に好き、あるいは異常に嫌いと言った場合、無意識下にある心理的なこだわり(普段は抑圧されている)に触れているとみることもできます。そういう見方をすれば、好きな音楽・嫌いな音楽を晒す行為は、自分の無意識の世界を白日の元に晒すのと同じことになってしまいます。
こうした弱点を晒すことの怖さにみんな気が付いていて、プライバシーの秘匿のために好きな音楽や嫌いな音楽について語ろうとしない人が多いのではないか、そう思えてなりません。しかし、あえてそれをやってしまおうと言うのは、どうせ人間似たようなもの、こんなことでプライバシー、プライバシーと心に鎧を着込むのは如何なものかと思うのが一つ。もう一つは、奇跡的にでもこうしたことを語り合える人がいたらいいなあ、と言う儚い願望からです。
なお、見解の相違や事実誤認により、読んでいて不快になる文言があろうかと思いますが、そのようなものがありましても御容赦いただきたく存じます。
ベートーヴェン
この作曲家の凄いところは、一連の作品に駄作が殆どないところです。ピアノソナタ、弦楽四重奏曲、交響曲を第1番から順番に聴いていても、全く飽きることのない曲想の幅の広さ。32曲もあるピアノソナタを1番から32番まで順に聴いていても飽きさせることがないのですから、やはり凄い作曲家です。
- ピアノソナタ第4番 変ホ長調 Op.7
ベートーベンのピアノソナタの中では、何て事のない作品なのですが、メロディーが気に入ってしまいました。
- ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2
「月光ソナタ」として有名な曲です。第1楽章と第3楽章に人気があるようですが、やはり第3楽章の方が好みです。よくベートーヴェン自身の失恋と結び付けられて語られる楽章ですが、そんなことを忘れて聴いても、その驀進するパワーがやはり激しい感情を掻き立てる曲です。なお、機会があれば一度この曲を古典調律で聴いてみると、曲の響きが12等分平均律とは全く違う魅力を帯びてくるのに気が付くでしょう。
- 交響曲第5番 ハ短調 Op.67
「運命」として有名な曲です。緊密に、蟻の這い出る隙もなく構築された第一楽章の緊迫感、第4楽章における高揚感がこの曲の魅力です。クラシック音楽が好きではない人でも、誰もが知っているでしょうこの曲は、しばしば初心者向けのように言われたり扱われたりしています。しかし、長くクラシックを聴きこんだ人でも、結局はこの曲に帰って行くような気がします。起点であり終点、それがこの曲だと思います。
- 交響曲第6番 ヘ長調「田園」 Op.68
実はこの曲は若い頃には好きではありませんでした。ベートーヴェン自身による標題が付けられていることで、何となく一段下に見ていたように思います。しかし、リストがピアノ曲に編曲したこの曲をカツァリスの演奏で聴き、実に豊かな響きが含まれているのにびっくりしました。改めてこの曲をオーケストラで聴いてみると、構成の確かさで決して第5番に負けていないことに改めて感心させられます。
- 交響曲第8番 ヘ長調 Op.93
小さな交響曲ですが、構成のバランスの良さ、リズム動機を生かしたダイナミズムの点では第7番より上だと思います。この曲は高校生の時から大好きな曲でした。逆に、第3番は極限まで膨れ上がった構成のように感じるので、傑作として世評は高い曲なのですが、あまり好きになれません。ドラマ性よりも圧縮された構成感を好むからなのかも知れません。
- ピアノソナタ第29番 変ロ長調 Op.106
ご存知「ハンマークラヴィーア」。ベートーヴェンが起死回生の一発として売り込んだ曲だそうで、気合の入り方が違います。
- ピアノソナタ第32番 ハ短調 Op.111
第2楽章を聴いていて思ったのは、自分の葬式にこの曲が流れているところでした。涅槃の境地、というのでしょうか。死んだ時はこの曲で見送られたい、と思ったのはこの曲しかありません。
- 弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 Op.131
ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲は決して難しくありません。素直に美しい旋律ですし、一回聴いただけで頭にすんなり入ってくる人懐っこさもあると思います。もっと親しまれてよい曲だと思うのですが。
シューベルト
歌曲ばかりで余り他の曲を聴いていないので、ここにあげる作品も一つだけです。
- 歌曲集「冬の旅」 D.911
中学生から大学に入るまで、この曲を繰り返し歌ってました。冒頭から挽歌の連続ですが、それが却って心を落ち着かせるのですね。ドイツ語が実は堅苦しいだけでなく美しい言語なのだと言うのを教えてくれたのもこの曲です。
リスト
メフィストフェレス神父、という二つ名があるそうですが、なるほど、と思わせてしまうものがあります。聖俗併せ呑む人間性の幅の広さがあったそうです。しかし、メンデルスゾーンとともに近年忘れられかけている作曲家のように思います。リストがリストから漏れていても気にかけない人が増えているようです。決して超絶的な演奏技能だけが売りの人ではないのですが。ベートーヴェン>チェルニー>リストと並べると、音楽史の本流にいた人なんですけどね……。
- メフィスト・ワルツ第3番 S.216
冒頭の5度ずつ上がっていく音程が印象的な曲ですが、バイオリンのチューニングを模したものだそうです。軽妙な面白さもあり、繰り返し聴いても飽きません。
- ベートーヴェン:9つの交響曲より第6番 ヘ長調 S.464-6
リストの業績の一つに、ベートーヴェンの交響曲のピアノ曲への編曲があります。楽曲構造が分かりやすくなり、それ自体ピアノソナタとしても楽しめるという点で、良い仕事をしたと思います。カツァリスが全曲録音していますが、ここでは第6番を取り上げました。「田園」ってこんな素晴らしい曲だったんだ、と目から鱗を落としてくれたからです。
- メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」 S.514
あるコンサートホールでは5回演奏されてそのうち3回もピアノの弦が断線した曲だそうです。別に激しい曲ではなく、オクターブ奏法の多用などでピアノが共振しただけだと思っているのですが。この曲自体は諧謔味たっぷりで、面白い曲です。
ブルックナー
同じ曲を11回作り直した、アマチュア作曲家、などと酷評する人もいますが、宗教の枠を超えた精神性を感じます。ブルックナー開始、ブルックナー休止、ブルックナーリズム、ブルックナーゼクエンツ、ブルックナーコーダなど、独自のスタイルを表現する用語に事欠かない作曲家です。しかし、一旦馴染んでしまうとそれらが気にならなくなるどころか、かえって魅力になってしまうのです。
- 交響曲第5番 変ロ長調 WAB105
この曲を初めて耳にしたのは、1980年頃のNHKのFM放送で流れたチェリビダッケ指揮、シュトゥットガルト放送交響楽団の演奏でした。当時、ブルックナーという人のことは何も知りませんでしたが、たちまち気に入ってしまいました。「城塞交響曲」と言ってとっつきにくい曲の代表に挙げられることの多い第5番ですが、そんなことはないと思うのです。ブルックナーの曲は虚飾がない分、素朴で馴染みやすいと思うのですが如何でしょうか。
- 交響曲第7番 ホ長調 WAB107
ブルックナーにしては珍しく引っかかりなく聴ける曲ですが、壮大さはやっぱりブルックナーならではのもの。初めて聴いたのはインバル指揮、フランクフルト放送交響楽団の録音でした。
シェーンベルク
12音音楽で音楽を「現代音楽」の方向へと堕落させた張本人、と言うような言われ方をする人ですが、そんなに12音技法そのものが悪いものとは思えないのです。この人の音楽は難しいように言われますが、自分には意外と馴染みやすく、かえってバルトークなどの方がとっつきにくく感じてしまいます。
- ピアノ協奏曲 Op.42
12音技法以後、さらにアメリカ亡命後の作品ですが、音列に3度や4度が多く含まれることもあってか、意外と聴きやすい曲です。そして、作曲者自身によってつけられた標題が、この曲と自分自身の気分に合致していて、この曲を印象深いものにしています。その標題は、
- 人生はとても平穏だった(アンダンテ)
- 突如として憎しみの情が湧き上がった(モルト・アレグロ)
- 深刻な状況が引き起こされた(アダージョ)
- それでも人生は続いてゆく(ロンド)
というものですが、シェーンベルクならずとも、この標題が実感を持って迫ってくると思いませんか?
シベリウス
一時期日本でもちょっとしたブームになったようです。
- 交響詩「エン・サガ(伝説)」 Op.9
この曲の始まり方はどことなくブルックナー開始に似てますね。ドラマチックな展開と人懐っこいメロディーが記憶に残っている曲です。
ストラヴィンスキー
- バレエ「春の祭典」
この曲で現代音楽のダイナミクスに慣れましょう、と言う言い方がされることの多い曲ですが、これって普通に我々の生活に満ち溢れている程度のものじゃないんでしょうか? ストレス発散にちょうどいいですし、音楽に合わせて身体を動かすのにも好適な感じです。つまり、この曲はすでに古典になっていて、実際の我々の生活はそれに追いついてきている、あるいはもっと先に行ってしまっているってことなのでしょう。逆説的ですが、イライラを静める鎮静効果もあります。
ショスタコーヴィチ
ソビエト連邦と切り離して論ずることの出来ない作曲家ですが、それ故に、したたかに作風を代えて生き延びた面と、作風の暗さや皮相な面ばかりが強調されてしまう人です。しかし、純粋に音楽的に見ても、ベートーヴェンと比較できるほどに駄作の少ない作曲家ではないでしょうか。また、無調の音楽が幅を利かせる中での調性音楽の守護者のように持ち上げる向きもありますが、よく聴いてみると前衛音楽の手法をかなり取り込んでいたりして、単純に古い手法の人と言ってはいけない気がします。また、交響曲ばかりが注目されてしまいますが、弦楽四重奏曲にも佳作が沢山あります。
- 交響曲第4番 ハ短調 Op.43
有名な「プラウダ批判」の影響で25年間もお蔵入りの憂き目に遭った作品ですが、それだけに渾身の力作で、随所で炸裂するショスタコ節はまさに音の洪水です。前期のショスタコーヴィチを代表する作品であることは間違いありません。ショスタコーヴィチの交響曲の中ではもっともお気に入りの曲です。
- 交響曲第9番 変ホ長調 Op.70
第二次世界大戦の戦勝記念にベートーベンの第9を上回る傑作を、との当局や世間の期待をディベルティメント風に笑い飛ばすユーモアと皮肉が痛快な作品。案の定、当局の怒りを買っています。曲の性格上、ゲオルグ・ショルティのような直球勝負の指揮者で聴くのが好きです。
- 交響曲第12番 ニ短調 Op.112
題材や作曲の経緯から体制迎合的とされていまいち人気の出ない曲ですが、何も考えないで聴けばなかなか痛快になれる曲です。第3楽章の打楽器の複雑なリズムなど、聴き所も多い曲です。
- 交響曲第13番 変ロ短調 Op.113
これはユダヤ人問題を正面から取り上げた作品で、余りにも凄絶な音楽ですが、それゆえに個人的で生半可な悲嘆や鬱の感情などはこの曲には太刀打ちできず、跡形もなく流されてしまいます。いつも聴きたい曲ではないですが、辛い時にこそ聴いてカタルシスの得られる曲です。個人的には第2楽章が気に入っています。「ユーモアは不滅だ」。
蛇足
参考までに、20世紀音楽が概観できるページを示します。このページを見る限り、私にとっては現代音楽よりも近代音楽の方が違和感が強い感じがします。